それは外國のマネではなかったった〜

それは外國の眞似ではなかつた。誇張でなしに、相手を殺したいと願望したからである。


けれどもその動機は深遠でなかつた。私とそつくりおなじ男がゐて、この世にひとつものがふたつ要らぬといふ心から憎しみ合つたわけでもなければ、その男が私の妻の以前のいろであつて、いつもいつもその二度三度の事實をこまかく自然主義ふうに隣人どもへ言ひふらして歩いてゐるといふわけでもなかつた。


相手は、私とその夜はじめてカフヱで落ち合つたばかりの、犬の毛皮の胴着をつけた若い百姓であつた。私はその男の酒を盜んだのである。それが動機であつた。


私は北方の城下まちの高等學校の生徒である。遊ぶことが好きなのである。けれども金錢には割にけちであつた。ふだん友人の煙草ばかりをふかし、散髮をせず、辛抱して五圓の金がたまれば、ひとりでこつそりまちへ出てそれを一錢のこさず使つた。一夜に、五圓以上の金も使へなかつたし、五圓以下の金も使へなかつた。しかも私はその五圓でもつて、つねに最大の效果を收めてゐたやうである。